わたしのせんせい

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 時には現場で大雨に降られ、帰宅することができない日もあった。何とか取れたホテルに二人きりで泊まったこともある。しかも、ダブルベッド。シンは濡れたTシャツを無造作に脱ぎ捨て、顔に似つかわない逞しい身体を露わにした。そして、一つしかないベッドで二人身体を寄せ合って眠った。  緊張のためか美羽はほとんど眠れなかった。  これだけ語ると、二人は身体の繋がりがあるように思えるだろう。しかし、現実は違う。シンがのし上がるために、美羽は必要のない存在だ。そのため、そういった関係(・・・・・・・)は無い。悲しいほど、美羽は対象外だった。  胸板の厚さも、腕の温もりも、寝起きの悪さも、柔らかい髪質であることも、毛穴一つ見当たらない肌であることも。  ただのアシスタントでは知り得ないことを美羽は知っていた。けれども、唯一知らないことが、シンの唇だった。  けれども、欲張ってはいけない。  そばに居ると決めた。 「あ、先生。来月の十八日、結婚式があるのでおやすみをください」 「……え? 美羽が……?」 「はい。もだもだしていましたけど、やっとに決まったんです。親と友人だけのささやかな式ですが、当日私も頑張らないといけないんです」     
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