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勇者奪還作戦
赤い絨毯の敷かれた絢爛な廊下を影が駆ける。
天井を走るネズミよりその足音は軽く、吹き抜ける風のように一瞬で通過する。加護を受けた黒のローブが輪郭を歪めていることもあいまってか、まるで幽霊のようだ。照明の下ですらその隠密性は完璧だった。
『廊下二つ目の角に敵影。先制攻撃を推奨。あと六秒で会敵します。五――』
不意に響く声。ピクリとローブの中で眉が動く。響いたのは廊下にではなく、頭の中だ。
まばらに散らしていた視線を一点に寄せる。二つ目の角。壺の置かれた手前の角だろう。
「了解」
吐息のように短く返事をし、その口を閉じぬまま詠唱。手にした小さな氷塊を緩やかに投擲。そして影は流れるように廊下から壁へ飛び、物理法則に逆らって壁を走る。
『――ゼロ』
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