それでも隣に居られたら

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 優しさが嬉しいのに、恥ずかしくてツンとした態度を取ってしまう。それでもアポロは、少し困ったような顔をしながらもニコニコしていた。メイは、ココアの置いてあるアポロの正面の椅子に座った。  促されて一口ココアを啜ると、優しい甘さが口の中いっぱいにじんわりと広がった。飲む度に体の芯から温められていく。知らず、口元が綻んだ。  メイがココアをゆっくりと飲むのを見守っていたアポロも、ココアの入ったマグカップに手を伸ばした。  2人しかいないリビングに沈黙が落ちる。しかし不快な静けさではなかった。  ふと、メイは今日の仕事のことを思い出す。やはりそう簡単に頭から離れてくれることではなかったようだ。まだ温かいマグカップを両手で包むように持ち、しばらく呆然としていた。蘇る断末魔。死に際の顔。心が凍りつき始め、動きを止める。  そのせいで、自分の顔を心配そうに覗き込むアポロに気付くのにかなり遅れてしまった。 「何よ……」  たじろいだメイをよそに、アポロは徐ろに立ち上がった。そしてテーブルを回ってメイのそばにやってくる。  何事かと構えていると、頭に大きな手がぽん、と乗せられた。 「……暗部の仕事か?」 「…………そうよ」  そっか、という言葉とともに頭に乗った手が、メイの髪を躊躇うようにゆっくりと梳く。嫌な気は全くせず、むしろ心地よい。メイは頭を髪を梳く手に身を任せ、ゆったりと瞳を閉じた。メイが身を任せたのを察したように、初めはぎこちなかった手の動きが滑らかになった。 「嫌な仕事を、してきたんだな」 「……うん」  声音まで優しい彼に、どこまでも甘えている。じわりと涙が滲んできた気がしたが、悟られないように目を瞑ったままでいた。弱っているときに人に優しくされると泣いてしまう。こんな弱い自分が嫌になる。  髪を梳く手はゆったりと動き続けている。 「なぁ、メイ」 「何?」 「辛いときはさ……」  そう言って口ごもったアポロの顔を見ようと、メイはゆっくりと目を開けた。涙は少し引っ込んで、もう表面に薄い膜を張る程度になっていたから零れはしなかった。
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