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しばらく実験に熱中していたら結構な時間が経っていたことに気付いた。外ではまだ雷が鳴っていたが、窓際にいたはずの彼女の姿が見当たらない。
「ジュリ?」
もう一度彼女の名前を呼んで部屋の中を見回した。相変わらず足元には本が落ちていた。でも、彼女はこの部屋にいない。
サタンは少しの焦燥感を覚えながら、近くにあった装置を起動した。
電源の付いたモニターを見ると、赤い点がぽつんと光っている。この点は、彼女の位置を示しているものだ。ふらふらといなくなるジュリの安全のために、サタンが独自に開発した。放っておくと勝手にどこへ行ってしまうかわからないのだ。今までで一番遠かったのは、隣町まで歩いて行ってしまったときだろうか。
装置によると、どうやらジュリはこの家の中でどこかに留まっているらしい。それを確認してサタンは装置の電源を落とした。
あの様子だと雷をよく見るために外に出て行ってもおかしくないだろう。外は危険だから、出ないようにしっかりと言い聞かせないと。
部屋から出て、周りを見回す。ここにはいないようだ。サタンは階段を下りてリビングへ出た。
「相変わらずすごいな」
「……綺麗。ずっと、見ていられる」
「――そんな人はジュリくらいだよ、多分」
話し声が聞こえ、そちらを見ると広い窓の前でジュリと並ぶオレンジ色の頭の男が見えた。
ただ並んで話していただけだろうが、少しばかり苛々した気持ちを感じ二人の方へ足音も荒く歩いていく。それに気づいた男――アポロは、やべっというような顔をして慌ててジュリから離れた。
「ジュリ」
名前を呼び、振り向きざまの手を引くと彼女の体がぐらついた。もう片方の手でその体を受け止める。金木犀の花のような香りが鼻孔をくすぐった。
「……サタン」
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