第一章 僕はついに重い腰を上げることにした

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第一章 僕はついに重い腰を上げることにした

 高校一年生の修了式の日、僕はついに重い腰を上げることにした。  足柄(あしがら)イロハ――僕と同じクラスの女子であり、今から僕が告白する相手の名だ。  彼女とは中学から約四年程の付き合いとなる。クラス替えでもずっと同じクラスだったことは、僕にとっては宝くじに当たるなんかよりもずっと幸運だと思っている。  彼女が好きなのだと気づくまでに、さして時間は掛からなかった。もともと彼女の容姿は控えめに言っても整っていると思うし、それに加え、彼女には人を見下したり差別したりという傲慢(ごうまん)さも軽蔑(けいべつ)(さま)もなかった。まさに、純情可憐な理想的女子と言えよう。  でも、僕が彼女に惹かれたのは――もちろん上記の内容もいくばくかは含むが――もっと別のところにあるのだと思う。  よく、「学校は社会の縮図だ」と比喩される。  スクールカーストなんて言葉がある通り、学校内では生徒間に自然とそういった自分のポジションのようなものが存在する。例えば、僕のクラスには"タカちゃん"という男子生徒がいた。いつも持ち前の明るさとユーモアで皆を引っ張り、常にクラスの中心人物だった。彼は、まさしくスクールカーストの上位層に位置する生徒だっただろう。反対に、違うクラスに"ポッサム"と呼ばれる男子生徒がいた。いつも一人で読書をしていて、人と話すのが苦手な生徒だった。僕の学校は恵まれていて、いじめなんかはなかったようだが、そのポッサムのような生徒はスクールカーストの下位層に位置しているだろう。  別に僕は、友達の多さや皆からの人気が全てだとは思わないが、少なくとも生徒間ではそれらの要素をあわせ持つ者がスクールカーストの上位層に抜擢(ばってき)されているようだった。  当然と言えばいいのかわからないが、足柄イロハは上位カースト勢だった。  女子にも男子にも、彼女は人気だった。もちろん、彼女に想いを寄せる男子は少なくなかった。  対して僕はというと、まあ中間ぐらいにはいたのではと思う。客観的にみても、僕は一般的で平凡な学生だったであろう。  そんな僕と彼女とでは、やはりあまり接点がない。  それに、当時の僕は別段、彼女のことを気にしてはいたが好きにはなっていなかったので、遠巻きに彼女を眺めるのが関の山だった。  転機が訪れたのは、中学二年生の新学期に行われた席替えからだった。
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