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ドキッとした。心を見透かされたようだった。
篠原は僕の反応を見て、優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ。不安なのはきっと皆も同じ。だから、不安が消えるまで一緒に頑張ろうよ」
篠原の言葉を聞いて、僕は自分を恥じた。
自分のことしか頭にない僕と違って、篠原は皆のことをしっかりと考えていた。広い視野を持ち、しっかりとした強い芯もある。素晴らしいリーダーシップを備えている。
「……うん。その通りだ、頑張るよ」
「その意気だよ! さあ、練習再開しよう!」
本当に、情けないと思った。
そういえば最近、篠原には助けてもらってばかりだなと気づく。でも、助けてもらっているのは僕だけではないだろう。篠原は良く気が利くから、生徒からも先生からも信頼が厚い。
「ほらほら、行くよロミオ様」
「了解」
篠原に肩を叩かれ、僕は立ち上がった。
今は練習に集中しよう。集中して、少しでも質を高めよう。考え事は後でいくらでも出来る。
僕は自身の中にある下らない思考を吐き捨てるように深呼吸して、再びリハーサルへと身を投じるのだった。
「いよいよ明日だね」
誰ともなくそう言った。明日は遂に文化祭当日である。
最後の予行練習を済ませた今の僕たちの心境は、きっと同じだろう。
「大丈夫! 明日はなんとかなる! 気がする!」
「気がするだけかよ! なんとかするの間違いだろ」
皆は和気あいあいとしながらも、気合いは十分に入魂されていた。
正直、まだ不安な箇所はある。それでも、進むしかない。
「武蔵、帰ろう」
帰り支度を済ませた足柄が言った。僕も鞄を持って応じる。
「そうだね、行こうか」
そして僕たちは、明日の文化祭についての話題を語らいながら帰路を辿るのだった。
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