第一章 僕はついに重い腰を上げることにした

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 僕の席は、窓際の最後尾に決まった。そして隣の席は、足柄イロハに決まった。  僕は困惑した。確かに、近寄りがたい存在である彼女が隣の席にきてくれたのは好機だとは思うが、同時に、隣の席で休み時間の度に喧々囂々(けんけんごうごう)とされるのも鬱陶しいと思った。人気者の隣の席というのは、やはり億劫だった。  席替えから一週間、僕が読書をしている時だった。 「武蔵(たけくら)が読んでるのってさ、深井森響子の最新作でしょ」  足柄イロハが、僕にそう尋ねてきた。突飛な出来事に驚いたが、僕は本から視線を外して彼女をみて答えた。 「そうだよ。よく知ってるね」  正直、僕の好きな作家の名前が彼女の口からでてくるとは思っていなかった為に、意表を突かれた。 「意外だって顔だね。私だって、読書好きなんだよ? それに、その作家さんの作品は私イチオシなんだから」  満足そうに言って、彼女はふふんと腕を組む。 「イチオシって……あ、そう言えば足柄は図書委員なんだっけ?」 「そうそう、覚えててくれたんだ」  思い出したのは今さっきだけどねと、心の中で呟く。 「他にもね、『東方の彼岸花』とかも面白いよ。イチオシ」 「あぁ、確かに面白かったね。今までとは違った雰囲気の文体で新鮮だったよ」 「え、知ってるの? まさか武蔵も響子ファンだな」 「うん、ファンだな」 「本当!? なんか嬉しい! 武蔵のイチオシも教えてよ」 ……なんてことがあり、その日から彼女とはよく会話を交わすようになった。  まさか彼女と共通の趣味で語り合えるとは思わなかったし、僕は単純に嬉しかった。  それから、事態はトントン拍子に進んでいった。  話す内容もどんどん豊富になっていって、僕が図書委員会に入ったことにより更に彼女と接する時間が多くなった。  僕はもう彼女に対して下らない謙遜の情などは抱いておらず、むしろ親近感を覚えていた。  そして、学年が上がり中学三年生ともなる頃には、僕は彼女を異性として意識せずにはいられなかった。
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