第一章 僕はついに重い腰を上げることにした

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 しかし、中学三年生ともなれば進路やら受験勉強やらで忙しくなる。  当然、想いを伝えている余裕などありはしない。  さり気なく彼女に「どこを受けるの?」と聞いてみたところ、「桜ヶ丘高校よ、武蔵と一緒ね。頑張りましょう」と返事をもらった。僕は安心して、勉強に取り組む事ができた。  受験に合格し、晴れて高校生となった僕は、ようやくなんの気負いもなく想いを伝えられるようになったという訳なのだ。  そして、僕は一学期の修了式である今日を、胸の内を告げる日に選んだ。    僕は学校を出てすぐのところにある路地に彼女を呼んだ。学校の敷地内ではやはり安心は出来ないからだ。  時間にして十分程、足柄はやってきた。 「お待たせ、ちょっと頼みごとされちゃってさ」 「大丈夫だよ」  平静を保っているつもりだが、僕の鼓動は信じられない速さで波打っていた。  こんなに緊張するのは今までで初めてかもしれない。 「それで、どうしたの? 珍しいじゃん、武蔵から呼び出すなんて」 「うん……君に伝えたいことがあってね」  落ち着け。ただ僕の気持ちを正直に言えば良い。難しいことじゃない。  僕はゆっくりと息を吸って、そして言った。 「足柄イロハさん、僕はあなたのことが好きです。僕と付き合って下さい」  ついに言った。言ってしまった。これでもう引き返せない。  はいでもいいえでも、今まで通りとはいかない。  「………………」  しばらく、この場は沈黙が支配していた。  足柄の表情は、顔を伏せてしまっていてわからない。  自分の鼓動だけが聞こえる。顔が熱かった。 「嬉しいよ……」 ポツリと、足柄がこぼした。 「私も、武蔵のことは好きだからさ、その言葉はすごく嬉しいよ」  足柄の言葉に胸が高鳴る。それって、つまり――。 「でも、駄目なの」  次の瞬間、足柄の返事は、湧き上がった僕の期待をいとも簡単にへし折った。 「え? ……駄目って……」 「今は駄目なの、ごめんなさい……。でもいつか、言うから。待ってて。……ごめんなさい」 そう言い残して、足柄は駅へと歩いて行ってしまった。 僕は茫然と、その背中を眺めていた……。
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