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第二章 決して無視することのできない大きな溝
修了式の日から夏休みをまたいで九月一日。
僕は言いようのない気だるさに似たなにかを背負いながら登校した。
いつもは足柄と一緒に駅で落ち合うけど、今日は会わなかった。僕自身、会わなくて良かったと思った。今は会っても気まずいだけだろうし、いつものように接するのに少し間を置いた方が良いだろう。僕は自分に言い訳するように、そう考えることにした。
学校に着くと、まだ足柄は来ていなかった。
僕は自席に腰かけ、朝のホームルールが始まるまで、いつの日か足柄がイチオシだと言っていた深井森響子の『東方の彼岸花』を読み返していた。
気がつけば放課後、僕は一人で帰路を辿っていた。今日は一日中ボーっとしていた。
足柄も、放課後になったらどこかへ行ってしまった。
元々、僕達が一緒に登下校するのは都合が合う時だけだ。これまでだって、何度も一人で帰った経験がある。
それでも、なぜか今日の帰り道は、いつもより暗い気がした。
それから更に二週間ばかりが経った。
学校は全体的に浮ついてきたと思う。僕達の学校、桜ヶ丘高校文化祭まで、残り十五日を切った。
あれから、足柄とは表面上いつも通りに接することができている。
会話も、登下校も、委員会も……。けれど、それはあくまで表面上。
僕達は気づかないフリをしているだけで、僕達二人の間には、決して無視することのできない大きな溝が、ばっくりと口を開いていた……。
そして、事件は文化祭まで残り三日となった九月二十六日、突如として起こるのだった。
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