第二章 決して無視することのできない大きな溝

3/3
前へ
/10ページ
次へ
 ロミオ役は決まった。ならば次は……当然、ジュリエット役を決める議論になる。  女子たちがそれぞれの都合やら何やらを話し合い始めた。  ジュリエット役ができる者は最初から限られてくる。如何(いかん)せん、文化祭まで時間がないのだ。まず、部活に所属していない帰宅部に絞られる。そこから、出店の方のシフトであったり、宣伝の為のビラ配りや客寄せなどで忙しい生徒が抜けていき、更に候補が絞られる。その候補の中から、ジュリエット役に適任と言える人物の名が挙がった。 「足柄さん、どう? やってみなよ、絶対イケるって」 「確かに、足柄なら向いてるかも!」 「え? 私?」  なんの因果かは知らないが、白羽の矢は足柄に立てられた。  急に自分の名が呼ばれて困惑している足柄に、僕の時と同様に先生が声を掛ける。 「どうだ足柄、やってみないか?」  足柄は――気のせいかも知れないけど――僕の方をチラッと見て、それから一度頷いた。 「わかりました。やります」  再び、クラスから感嘆の()が流れる。  ジュリエット役が足柄に決まったこと。これが、僕が予期していなかった本当のアクシデントだった。 「はい、これ二人の台本ね」  役が決まるや否や、ジュリエットの母であるキャピレット夫人役の篠原から、僕と足柄に台本が渡された。 「もう三日しかないんだから、気合入れて頑張ろう!」  そう言って、篠原は席へと戻って行った。  取り残された僕と足柄は、どちらともなく「頑張ろうね」と言い合った。  各々、席に戻って台本に目を通す。    仮面舞踏会で一目惚れしたロミオとジュリエットは、互いに敵対している家の者だと知りながらも愛を誓い合う。しかし、運命は残酷に二人を引き裂き、最後には二人共、死んでしまう。そして、二人の死によって、両家は争い合うことを止めて和解する。  二人の恋人の死が、両家の敵対関係をなくした……という話だ。  この悲劇的ラブストーリーの主人公が僕で、ヒロインが足柄。  それが決まった時、僕は()(たま)れない気持ちになった。  まるで、ロミオとジュリエットの悲劇的な結末が、そのまま僕たち二人の行く末を表しているように感じられたから……。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加