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第三章 黙って足踏みしてるだけじゃ進まない
その日の放課後、僕は一か八かの提案をしてみることを決意した。
演劇の練習で皆が体育館に集まったところで、僕は口を開いた。
「皆、ちょっと良いかな」
僕の声に反応して、皆はこちらに注目したようだった。僕は続ける。
「皆に相談……いや、お願いがあるんだ」
「どうしたの、武蔵? 珍しいね」
聞いてきたのは篠原だった。確かに、普段から自分の意見を表立って言うなんて目立つようなことはしないから、珍しいと思うのも頷ける。僕自身も、なんでこんなにムキになっているのかわからない。
でも、"このまま"なんてのは嫌だった。だから僕は皆に言うんだ。
黙って足踏みしてるだけじゃ進まない。
「僕たちのやる『ロミオとジュリエット』のストーリーを改変したいんだ」
ざわざわと、僕の提案に皆が動揺していた。
当然、そうなるだろうとは予想していたが。
「武蔵、急にそんなこと言ったってよ?」
「そうだよ、本番までたったの三日しかないんだぜ?」
想定通り、賛成の声は上がらなかった。でも、諦める訳にはいかなかった。
「確かに、時間は少ないよ。でも、そんな大きな改変じゃないんだ。ただ、最後のワンシーンだけで良いんだ。僕と足柄は今日から役を覚えるのだし、どうせやるなら僕たち一年二組の『ロミオとジュリエット』をやりたいじゃないか」
つい、少し熱くなって語ってしまった。
そんな僕の熱弁が通じたのか、さっき反対していた生徒も口を噤んでいた。
「どうかな? 無理にとは言わないよ、ただの提案だから」
僕の問い掛けに、すぐに答える者はいなかった。
それから少しして、最初に口を開いたのは篠原だった。
「私は、やってみても良いと思うな。確かに、原作の模範だけやるってのもなんだか味気ないしさ。武蔵の提案は面白いと思った」
篠原の言葉を皮切りに、皆が意見を言い出した。
俺も良いと思う。私も。でもやっぱり厳しいんじゃ……。自分はやってみたい。
各々が意見を言い合い、説得し合い、多数決で答えは導き出された。
「――ってことで、私たち一年二組は、オリジナル版『ロミオとジュリエット』を執り行います! 以上、QED!」
篠原が声高らかに宣言した。
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