第三章 黙って足踏みしてるだけじゃ進まない

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 僕たちが話し合いを終えた頃には、外はもう真っ暗だった。時刻は十八時を回っていた。  僕と足柄はまだ通し練習に参加するのは難しいだろうし、変更になった部分も覚えないといけないから、今日は個人練習にして、通しの練習は明日にしよう。そう皆で決めた。  それから、ちらほらと帰る人がいて、今体育館に残っているのは僕と足柄を含め片手で数える程しかいなかった。 「ありがとう、篠原。色々と援助してもらって」  僕がお礼を言うと、 「良いって良いって、私も面白そうだと思ったし。好きでやったことだからさ」  篠原は笑ってそう言った。 「じゃあ、私も帰るから。残ってる人で戸締まりよろしくね」 「わかった。またね」  篠原は手を振って、体育館から出て行った。  そして、少しでもセリフを覚えようと台本を読み込んでいる内に、とうとう体育館に残ったのは僕と足柄だけになってしまった。いつの間にか、一時間以上も経っていた。 「どうする、足柄。そろそろ僕らも帰った方が良いと思うけど」 僕が聞くと、足柄は台本に文字を書き込むのを止めて顔を上げた。 「え、もうこんな時間なの?」 「そうだよ、だからもう帰ろう」 「……うん、帰ろうか」 僕たちは荷物をまとめて、電気を消して、体育館の鍵を閉めた。鍵を職員室に返して、僕たちは学校を後にした。 「ねぇ、武蔵」  他愛もない雑談をしている時に、ふと足柄が僕を呼んだ。 「ん、なに?」  僕が促すと、足柄は言った。 「武蔵ってさ、普段あんなことしないじゃん」  呟くような質問だった。あんなこととは、皆の前で自分の意見を大っぴらに言ったことだろう。それしか思いつかない。 「そうだね、しないよ」  素直に答える。 「じゃあ、なんで今日はしたの?」  すると、また質問が飛んできた。僕は返答に困った。  僕が普段言わない自分の意見を口にして、あまつさえ押し通そうとしたのか。それは僕自身も理解は出来ていないから。ただ、 「嫌だったんだ」  心の声が、雨漏りのように声に出た。 「うまい言葉が見つからないけど、あのまま普通に、なんの変化もないままことが進むのが嫌だった……というか、怖かったんだ」  独白のような僕の返答に、足柄は黙って耳を傾けていた。 「変えなきゃいけないって思った。なにをどのようにかなんてわからないけど、とにかく行動しなくちゃいけない。そう思ったんだ……」
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