第三章 黙って足踏みしてるだけじゃ進まない

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「……そっか」  足柄はそれだけ言うと、もうなにも聞いてはこなかった。  その後は、ただ無言のままに時が流れていった。  僕たちの間には、足音だけが響いている。電柱に取り付けられている街灯が足元を淡く照らす。  僕は嘘をついた。  今日、僕は皆に、さも「一年二組で文化祭を盛り上げよう」という旨の主張をした。  確かに、皆で楽しく文化祭を成功させたい気持ちはある。しかし、それはほんの氷山の一角だ。僕は別に、そこまで学校行事を重んじている訳ではない。  僕が物語の改変を申し立てたのは、他でもない自分の為だった。  僕はあのまま、なにも変えず、変わらずに物事が進むのが嫌だった。更に言えば怖かった。ロミオとジュリエットのように、最悪の結末が待っている気がしたから。  我ながら単純だと思う。演劇の結末を変えれば、僕の――いや、僕たちの――迎える結末も変わるかもしれないなどと。まるで、合格祈願のお守りや鉛筆にすがる受験生のように、僕は足掻いた。  今日、僕が取った行動が正しいのかなんてわからない。ひょっとしたら、更に事態を悪化させる結果になるかもしれない。でも、なにもしないよりは何倍もマシだった。やらずに後悔するより、やって後悔した方が良いと僕は思う。  これが、ただのエゴイズムで自己満足だとわかっている。  それでも、僕は……。  結局、この日は駅で別れるまで、僕たちの間には特に会話はないままだった。  翌日から、予定通りリハーサルが始まった。  流石に昨日の今日だ、付け焼き刃でこなせるほど甘くはない。失敗は何度もあった。  それでも、皆は明るい雰囲気だった。前向きな意見が飛び交った。  僕にはなんだか眩しくみえる。後ろめたさを感じる。皆は真剣に、文化祭を盛り上げようと奮起している。良い演劇をしようと専心している。  対して、僕はどうだろうか。もちろん、手を抜いているつもりは毛頭ない。僕とて、皆と一緒に文化祭を盛り上げたいと思っているし、演劇にも真剣に取り組んでいる。でも、どうしてだろうか。どこかで、僕は皆に置いて行かれる気がする。なにか足りない気がする。そんな不安が、僕の胸中で(くすぶ)っていた。 「どうしたの、浮かない顔して」  壁に背もたれて座る僕の頭上から降ってきた声に顔を上げると、ニッコリと笑う篠原がいた。そのまま隣に腰を下ろした彼女は、こちらを見て言った。 「不安なの?」
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