夜のカフェテラス

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
昨日待ち合わせをした。午後9時、近所のカフェで彼女と会う予定だった。俺は夕方のランニングを済ませ、シャワーを浴びて犬と遊んで時間を潰していた。 不意に呼び鈴が鳴った。「kです。すいません」彼女だった。反射的に時計を見た。9時半だった。俺は慌てて服を着て「ごめんごめんごめん」と言いながら、苦虫を噛み潰したような顔をした彼女に会った。 それでも俺たちはカフェに行った。少しだけおしゃれをして。黄色のガス灯が石畳を照らしている。遠くに教会が見えるカフェテラスだった。道中二人とも無言だった。俺たちは二人してコーヒーを頼んだ。 「遅刻魔」彼女は言った。「ごめん、完全に忘れていた。ケーキでも食べよう」俺は言った。「私のことなんかどうでもいいと、思ってるから忘れるのよ」彼女は言った。「そういうわけじゃない。ただ、忘れっぽいだけだ。君のことを忘れてたわけじゃない」俺は言った。「忘れてくれてもいいのよ。私も最近物忘れがはげしくなったような気がする」彼女はテラス席のガス灯に照らされ、赤みがかった頬をしていた。「俺は君を忘れない。待ち合わせたことを忘れただけだ。それはコーヒーと緑茶ぐらい違う」俺は彼女に顔を近づけた。「カフェインが欲しいなら、私の分もあげる」そう言って彼女は席を立ち、歩き去った。 俺は彼女の赤いワンピースを忘れないようにみつめていた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!