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「いや……そのさ」
彼は苦笑いして彼女の頬を撫でた。
「まあ、最初から説明するとな――」
彼は自分が見た夢の話をした。
まず幼い時の自分と彼女が出てきていて、自分は木に登っていた。しかしすぐに、どこかから現れた緑の太い蔓に捕まって、必死で逃げ惑う夢だった。
「……それがうちの庭――すぐそこが舞台だったんだ。妙にリアルで……」
彼はため息をついた。
夢の中で登っていた木さえそこにあるのだ。
「ちっちゃい頃のあたしたちが出てきてたの……そう……」
「確かに、木とか登ってたよなおれ」
「うん。身軽だったの……あたしのことを置いて登ってしまってた」
幼い頃に家族ぐるみで付き合いのあった彼らは、小学校に入るまではしばしばどちらかの家で一緒に過ごしていた。
彼女と庭で遊んだのも記憶の片隅にぼんやり残っている。
「そこもやっぱりやけにリアルでさ……夢の中でもおまえが下から必死でおれのことを呼んでいた」
「……それ、夢だけど、あなたの記憶が整理されて蘇ってただけじゃないの」
彼がぴょいと木に登ってしまうので彼女が下から彼を呼ぶ。そんな光景も、何となく思い出される。時には面白くなさそうに、ある時には心配そうに呼ぶ声が。
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