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「そうなんだろな……夢ってそんなもんだったりするよな」
「でも、その後に蔓に追いかけられたんじゃ、たまったもんじゃないね」
「ほんとに。嫌な夢だったな」
腕の中の彼女がぽ、と小さく息を吐いてから、図鑑は? と聞いてくる。
「図鑑?」
「あの頃のあなたは……いっつも植物図鑑を持っていたのよ。それは夢に出てきた?」
「ああ……あぁ、夢には出て来なかったな」
その頃彼は子供用にしては分厚い植物図鑑がたいそうなお気に入りで、どこへ行くにも持っていた。
彼女と遊ぶときでさえも肌身離さず持っていたほどだ。
ことあるごとに図鑑を開いては写真を目に焼き付けるほど見入り、外に出て植物を見てはそれが何なのか言い当てられるほど内容をよく覚えていたという。
どこにいても図鑑ばかり読みふけってしまうので、「ちゃんと挨拶しなさい」、「ご飯のときはしまいなさい」などと叱られてばかりだったことも何となく覚えている。
――よほど図鑑だか本だかが面白かったんだろう。
もしかしたら人間よりも。
――小さい頃から変わんねえな。
「よほど気に入ってたんだよな……、夢に出て来ないとは図鑑も愛想尽かしてきたわけだ」
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