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「そう。分かんないってことは、意識もしてなかったってことだろう」
「――あたしのことを覚えてたくせにね」
何年も後になって再会した時にはお互い幼い頃の面影はほとんど残していなかったけれども見てすぐに分かったのは事実だった。
――好きじゃなかったんだね。
彼女が悲しそうにこぼした。
「もったいないわ」
「……自分で言うのか、それ」
「いまは全然可愛くないから……」
「……」
可愛いからいいってもんでもないし、そもそも本気でそう思っているのだろうか。
それに。
大人になってあどけなさや純粋さ、無邪気な心は確かに汚されてきただろうけれど、子供の頃の「好き」という気持ちでは到底できないだろう付き合いを、今できているのだからいいような気がする。
――大人になってからじゃだめなのか。
「じゃ、可愛かった子供の頃に戻りたいか」
「――ううん」
「それ見ろ」
「……なに?」
「子供の頃に戻って、……図鑑なんかよりもおまえに夢中になったとして……。それで、今全く同じようにこうしていられるのか? 絶対に?」
「……」
「子供の頃には意識しなかったけれど……そういう過去を経ても、今こうしていられるんだから」
――おれはそれでいいと思うけどな。
「今……ちゃんと好きだから……いま……」
眠いせいだ。
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