第一章

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「なんだ、ミユキ。朝ごはん食べないのか?」  慌ててダイニングキッチンにやって来たミユキに対して、父サトルは言った。 「なんで起こしてくれなかったの!?そんな暇ないっ!」 「勝手に部屋に入るなって怒ったのはミユキだろう?起こしに行こうにも、行けないじゃないか」 「それとこれとは話が別でしょっ!もういいっ!」  ミユキは冷蔵庫を開け放して、200ミリリットルの牛乳パックを鞄に突っ込んだ。そしてそのまま、ダイニングキッチンを出て行く。 「いってきますはー?」  サトルの呼び掛けに応える声は、ない。 「やれやれ。反抗期か……」  遠くでドアの閉まる音を聞きながら、コーヒーをすすった。  1DKのアパートの一室に、この親子二人は住んでいた。娘が中学生に上がると同時に、唯一の単独部屋は娘ミユキに譲り渡し、父サトルはダイニングキッチンで生活をしている。いまやミユキは中学三年生。シングルファザーの自分に敵意を抱くのも、無理はない。 「さて、と。俺も仕事に行くか……」  買ってから10年以上経っている椅子が、軋んだ音を出した。          ●     
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