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千花はしばらく、「そっかそっか」とつぶやき、自分の中で落としどころを見つけたのは、ほふぅっと息を吐き出す。それから、まじまじと私を見た。
「……うん、変、じゃないよ。なんか、はつらつとして、見える」
「はつらつ。元気ハツラツか。うん、千花、実は私ね、ここだけの話、これからは少し、変わってみようと思ってるの」
「変わる?」
「そう、青春しようと思って」
「せいしゅん……?」
つぶやいた千花は、私が何を言い出したのか分からない、というような困り顔になった。何だか悪いことをしてしまったような気分になるのは、千花はあくまであの頃のまま、まだ十七歳の、控えめで大人しい少女のままだからだろう。
私の知っている、三十二歳の肝っ玉かーちゃんではないせいだ。
「ごめん、なんか変なこと言って。気にしないで、ご飯食べよう」
箸まで止まってしまった千花に声をかけると、私は適当に話題を逸らしてプチトマトを頬張った。千花はどこかほっとした顔で、同じように弁当の残りを口にした。
六限目の授業が終わると私は指宿くんに声をかけた。
さすがに教室で声をかけるのは勇気がいったので、さっさと帰り支度をすませて教室を出た指宿くんを追いかけて、廊下で肩を叩いた。振り返った指宿くんは目を丸くした。
「指宿くん、私、青春する方法を考えたんだけど、聞いてもらえる?」
「聞くのは構わないけど、でも、どうして俺?」
「それは、指宿くんが……」
「俺が?」
「指宿くんに聞いてもらいたいから」
指宿くんは少しだけ戸惑うような顔をして、周囲に目を走らせてから言った。
「こんなところじゃなんだから、図書室に行こう」
「分かった。じゃ、鞄取ってくるから、先に行ってて」
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