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エピローグ
今和泉篤子。三十二歳。
本厄まっただ中な上に、絶賛、大殺界中。
だからだろうか、派遣の仕事をクビにされた。
「まじか……」
その脚で私がふらりと向かったのは日暮里駅だった。
売店で缶ビールを買って、横断歩道を渡たった先にある絶景を目指す。
鉄道オタクと呼ばれる人達には有名なスポット。
歩道橋の真下にはさまざまな種類の電車や新幹線が通る。
時間帯があえば、レアな電車だって見ることができる、とっておきの場所だ。
「いい、やっぱりいい」
こんな場所にわざわざやって来るからには他でもない。
電車が好きだ。
上京から早十数年、私は電車が好きになっていた。
故郷の鹿児島にいた当時は電車なんて移動手段でしかなかったはずなのに、東京に出て来て、毎日たくさんの電車を目にしているうちに愛着が湧くようになっていた。
どれくらい好きかと聞かれれば、好きな電車が廃車になると決まった時、運転最終日には見送りに行って涙するくらいには好きだ。
電車愛をここで語ると長くなるので割愛。
ぐびりとビールをあおる。
足元を通り過ぎてゆく、蛇のように長い電車を眺めているだけで癒された。
ぐびり。
「北斗星、乗りたかったなぁ」
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