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「いや、変じゃないし。ちょっとほら、いろいろ、あっただけだし。いやぁ、やっぱり家はいいなぁ」
すうはあ、と家の空気を吸って吐き出す。
高台にある二階建ての日本家屋は祖父母の家をリフォームしたもので、古さと新しさが入り混じった匂いがする。目印はなんと言っても樹齢、何十年か分からないけど、家を守るように立っているアコウの大木だ。
「というわけだから、指宿くん」
私は家族の誰とも目を合わせずに指宿くんに向き直る。
「私はもう大丈夫だから、心配しないで。送ってくれて、本当にありがとう。また、明日ね」
「お姉ちゃんが、男の子とまともに会話してる」
「やっぱい彼氏け?」
「もう、悠里もばあちゃんもうるさいよ!」
「あっちゃん、せっかく来てくれたんだから、お茶くらい飲ませてあげたら。こんな暑い中、ここまで送ってきてくれた人をすぐに追い返すなんて、かわいそうよ」
「そうだな、篤子。指宿くん? って言ったか。あがってけ」
「お母さん、お父さんまで……」
「なんじゃ、もじょか顔しちょっが。今日はよか魚もらっちょうけ、食べてけぇ。なぁ」
「じいちゃん……」
丸顔のじいちゃんの笑顔は最強の武器だ。ひしっと指宿くんの腕をつかんでにこにこしている。指宿くんはどこか呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに笑みを返して頷いた。
「ありがとうございます」
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