エピローグ

12/241
前へ
/241ページ
次へ
 鹿児島弁で「もじょい」は「かわいい」という意味だ。  じいちゃんにかわいいと言われたことを、指宿くんは多分分かっていない。  それでもじいちゃんが、もらいたての新鮮な魚を食べていけ。と言ったのは伝わったのだろう。 「今和泉さん、少しだけ、お邪魔させてもらっても、いいかな?」  私にまでお伺い立てる辺りがすごいね。無理強いされても嫌な顔一つしない指宿くんの育ちのよさを感じながら私は頷いた。 「どうぞどうぞ、こんな家でよければ、ゆっくりくつろいでいって」 「うん」と、微笑む指宿くんが天使すぎて私は鼻血が出そうでした。  それから、畳の居間で冷たい麦茶を飲んでお菓子を食べていたはずが、じいちゃんの言ってた魚の刺身が出てきて、さらに茹でたそら豆や唐揚げや煮物が出てきて、もうこりゃ飲むっきゃない。キンキンに冷えたビールで喉を潤いしたい。と、父と祖父がおいしそうに飲んでいた瓶ビールを奪い取り、手酌で飲み始めたら、すぐに酔っぱらって倒れてしまった。 「篤子!」 「あっちゃん!」 「お姉ちゃん!」 「今和泉さん!」  みんなの声がぐるぐると重なったのを聞いたが最後、私の目の前は真っ暗になってしまった。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加