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「なんでよっ!」
がばっと起き上がったら、ベッドの上だった。
ぼんやりと辺りが明るいのは、オレンジ色のカーテン越しに差し込む太陽の光のせいだ。枕元にある目覚まし時計は六時過ぎを指している。
私の今のツッコミは、なんでビールをほんの一杯飲んだくらいで酔っぱらってんだ。という自分へのツッコミだ。
「って、そうじゃないし……」
ベッドから降りると、私は姿見の前に立つ。
セーラー服からパジャマ姿に変わっているが、鏡の前に立っているのはどう見ても、三十二歳の私じゃない。ずるずるに伸ばしっぱなしの長い黒髪の間にあるのは、まだ少女のあどけなさを残した私の顔だ。
頬に触ると肌の張りが違う。その頬を思いっきり引っ張ってみた。
「ひはい……」
ベタな方法だけど、これが夢かどうか確かめてみたのだ。
痛い。いくら引っ張っても痛い。ということは。
「これは、現実……?」
現実だというのなら、どうしてこんなことになってしまったのだろう。三十二歳のはずだった私が十七歳になっている。正確に言えば、三十二歳の意識のままで、なぜか十七歳の私になってしまっている。
つまり私は、意識だけが過去に戻ってしまっているのだ。
「……なんでそんな、過去にタイムスリップとか、SFじゃあるまいし……」
頭を抱えているとノックもなしに部屋のドアが開けられた。
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