エピローグ

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 完全に勘違いされてる。どうしたもんか。というか、指宿くんが私をこの部屋まで運んだとかどうして。お父さんはどうした。  うだうだ考えていても埒が明かない。  パジャマを脱ぎ捨てると制服に着替えて(うわっスカート長っ)、寝ぐせがついて絡まってる長い髪に櫛を入れて、とりあえずポニーテールにして、洗面所で顔を洗って化粧水……が、ないし。学生時代どうしてたんだ自分。化粧水なしでもこの肌を持続できてたのか、若いって恐ろしい。とりあえず母の物を借りよう。化粧水と乳液、日焼け止めを塗って、化粧下地……はいらないのか? すっぴん? すっぴんでいいの? 大丈夫? 眉毛は……描かなくてもいいくらいぼうぼうだ。せめて眉毛だけでも整えたい。 「あっちゃん、いつまで洗面台使ってるの。さっさと朝ごはん食べて学校行きなさい。遅刻するわよ」 「お母さん、分かってるんだけど、ちょっと待って、眉毛……ハサミ、ない?」 「あんた、何言ってるの? それともやっぱり、どこか悪いんじゃ」  吊り上がっていた母の眉が下がっていく。  これ以上変に心配させるわけにはいかないので、私は眉毛を諦めて朝食にありついた。ほかほかの白いご飯に、ベーコンの乗った目玉焼き、納豆、ノリ、梅干しの三点セット、味噌汁にはワカメと豆腐が入っている。懐かしい朝食メニューに目頭が熱くなった。 「いただきます。お、おいしい……」  どれもこれもおいしいけど、祖母の手作りの麦みそで作られた味噌汁がべらぼうにうまい。 「あっちゃん、そんなにかき込むと喉に詰まらせるわ」  母に言われるまでもなく、盛大にむせた私にはぬるめのお茶が差し出された。 「あっちゃん、ご飯は逃げんけ、よーく噛んで食べ」  祖母はテレビのニュースを見ながら黒糖をかじり、お茶を啜っている。すでに食べ終えた悠里は、手を合わせると食器を台所に運んで「行ってきます」と出て行く。私はお茶を飲んでほっと一息つくと、祖母に言われた通り、しっかりゆっくりご飯を噛みしめた。
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