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「今和泉さーん」
ぜーぜー、トロトロ。もはや走ってるというよりは、歩いてるという方が近いような、そんな私を呼ぶ声が後ろからする。
チリンチリンと、ベルが鳴る。
「今和泉さん、だよね? いつもと髪型違うから、ちょっと分からなかった」
自転車に乗って現れたのは他でもない。
「い……い……い……いぶすき、くん……、おはよ」
「おはよう。って、今和泉さん、大丈夫?」
自転車から降りて並んで歩く指宿くんは表情を曇らせる。私はそんなにひどい顔をしてるのだろうか。せめて口紅だけでも塗ってくるべきだったか。
「昨日も体調悪そうだったから、今日は休むのかと思ってたんだけど。無理しちゃだめだよ」
「いや、無理っていうか、無理したくはないんだけど、でも、このままじゃ遅刻しちゃうし……」
「遅刻? あっ、ほんとだね」
細い腕にはめた腕時計に目を落とすと、指宿くんもはっとした。
「それじゃあ、今和泉さん、乗って」
「へ?」
「後ろ」
指宿くんは自転車にまたがると、荷台をぽんと手で叩く。
「えっ、でも、自転車の二人乗りは違法だし、警察に見つかったら……」
「何言ってるの? 遅刻するよりましだよ」
指宿くんは私の手を引いた。
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