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少年は一瞬だけぽかんとした。どこか傷ついた顔もした。それから意を決した顔をして言った。
「俺は、指宿隼人。玉手箱高校二年生で、今和泉さんの同級生だよ。今和泉さん、そろそろ立ってもらっていい?」
指宿隼人? 玉手箱高校は私の卒業した高校だ。私の、同級生?
その時、こめかみの辺りがズキンと痛んだ。
「……っつぅ」
「今和泉さん? 大丈夫?」
頭痛はすぐに収まった。一瞬歪んだ視界が元に戻ったのを確かめてから、私は彼を見つめる。
「……指宿くん」
私はその名を知っていた。
心配そうな面持ちで私を見つめる薄茶色の瞳を、私は知っていた。
「やっぱり、病院に行こう。立てる?」
指宿くんは私の腕を立ち上がらせると歩き出した。
「指宿くん」
「ほら、しっかり歩いて」
指宿くんは少し先に立てかけてあった自転車を起こすと、振り返った。
「指宿くん、指宿くん!」
立ち止まった私を怪訝そうに見つめる指宿くんの顔を、私は知っていたのだ。どうして忘れてたんだろう。大切な人の顔なのに。
「指宿くん、指宿隼人くん。あなたは私の、はつこっ……」
慌てて自分で自分の口を塞いだ。
そうだ。彼だ。彼なのだ。
高校生二年の四月に転校してきた少年で、私の初恋の人。
何がどうなってこんなことになってしまったのか分からないが、どうやら私は過去に戻り、指宿隼人と再会したようだ。
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