エピローグ

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 何もかもが当時のままで、さらに若かった。  指宿くんは最後まで「病院に行こう」と言い張っていたが、私は「行かない」と断固拒否した。  だって、病院に行って何をどう説明しろと言うのだろう。  冬なのに夏になっていて、東京にいたはずなのに、生まれ故郷である鹿児島県指宿市(かごしまけんいぶすきし)にいて、高校生の指宿隼人が目の前にいて、私もどうやら高校生の身体であるらしい。なんて、医者に説明したら即入院決定だよ。記憶障害を疑われちゃうよ。  というわけで、「それじゃあ、家まで送り届ける」と言って聞かない指宿くんと一緒に自宅に戻ったわけなのだけど。 「お父さん、お母さん!」  びっくりするほど若い。 「じいちゃん、ばあちゃんも!」  シワの数が減ってる。 「悠里(ゆうり)!」  もうすでに結婚して、二人の子持ちである四つ下の妹がまだ中学生だ。 「テトラ!」  テトラポットの近くで拾った柴犬のテトラがまだ死んでいない。尾っぽをぱたぱた振るテトラを抱きしめて泣いていると、家族みんなが何事かという顔をした。  そして、私を家まで送り届けてくれた指宿くんを「誰?」という風に見ていた。
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