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鷹雄は体だけの淡やかな関係を女に求めた。
女もまた、寂しさを埋めるだけの、みせかけの恋を鷹雄にあてた。
仕事帰りのくたびれた夕べに、夫の帰らぬ夜に、
「あら、あんた、来たの……」
鷹雄を招き入れると、押し付けがましくない仕草で、残り物だけどこれをお食べ、寝床をとってきてあげるわと、あれこれお膳立てを始める。
ことが始まれば、ときに手指と口唇だけで果てそうになるところに、
「いいのよ。さあーー」
妖しくたたみかけられるものだから、抗いたい気持ちごと弾け飛んで真っ白になる。
そうしていっさいが終わると、鷹雄は煙草をふかして洋眼鏡をかける。立ち上がるなり外套をはおろうとする背中へ、
「ね。また来てね……」
しなだれて脂粉の余韻は残しても、女は次の約束は交わさない。それが大人の矜持とでもいうように。
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