明治発熱 零

1/4
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

明治発熱 零

鷹雄が初めて女を知ったのは16の春である。 女といっても相手は15の小娘で、中身はしごく他愛ないものだ。ままごとの延長のように肌を重ねてはみたが、ほとんど子供の遊びに過ぎなかった。 やがて鷹雄が地元房総を離れ帝都の高等科へ進学を決めると、同時に細い縁も切れた。 だが一度知った柔肌の味は鷹雄を狂わせる。 親に嘆かれぬ程度の学業こそ納めたが、帝都で鷹雄が学んだ諸事はまったく褒められたものではない。 心中の果てにひとり生き残ったあや付きの女給しかり、旦那が他所に女をこさえて足の遠のいた人妻しかり。 日清戦の勝利に沸く都会の片隅で、隠れるように生きる女たち。そのすいも甘いも噛み分けた、いかにも翳のある女の色香が、鷹雄の背中をぞくりと粟立たせたのである。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!