第一章 ― 出逢 ―

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第一章 ― 出逢 ―

 三ヶ月前――。 「チリンチリンッ」  人混みの間をかき分け一台の真っ赤な自転車が通りを渡る。 寒空の中、マフラーや手袋もせず頬を赤く染ながら進む自転車はスーパーの駐輪場で止まった。  迷わず進む冷蔵コーナーから、焼きそばの麺を30袋カゴに入れ、レジの手前にある焼きたてパンの香ばしい薫りにつられる様に近づくと、真っ白なコック帽を被った中年のおじさんが声をかける。 「いつもの準備出来てるよ!」 「ありがとう! おじさんっ」  サンドウィッチ用に薄くスライスされた食パンを2本そっと受け取り手際よくレジに並ぶ。 「おや、今日の日替わりランチは焼きそばだねっ。マスターに帰り寄るって伝えてね」  少女は常連なのか、レジを打つ年配の女性と親しげに会話を交わしている。 「うん。焼きそばの麺はここのじゃなきゃダメだってうるさいのっ。ここのスーパーに来る間、ニ軒もスーパーあるんだよっ。時給上げてもらわなきゃ!」  愚痴の一つをこぼす彼女の後ろには、白いコック帽。 「へへっ。良い事聞いたぁ。マスターに言っちゃおう」 「わぁああっ! 今のは内緒だよっ。もうっ」 「看板娘の寿々ちゃんに辞められたら、あの喫茶店行く楽しみなんて何もないから、仕方ないっ。おじさん言わないぞっ。はい。これもどうぞ」  パンコーナーの主人は、食パンの耳を6本程ビニール袋に入れ手渡していた。 「ありがとうっ。おじさん大好きっ」  年甲斐も無く頬を赤らめるパンコーナーの主人を見たレジの女性はここぞとばかりに間に入る。 「なんだいあんた。真っ赤に焦がすのはパンだけにしときなよっ」 「な、なんだとっ。まぁ、否定もできねえか。はははっ」  彼女がいるだけで、笑いが飛び交い和やかな空間が広がる。人の心を穏やかにさせてくれる、優しい雰囲気をもった少女だった。
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