第二章 ― 依頼 ―

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第二章 ― 依頼 ―

 深夜、CLUB ― 雅 ― 「勇仁さん、今夜も飲みすぎですよ」 「うるせぇ。俺は客だぞ! それに今日は誕生日なんだよ! 金はあるんだよ」 若い女達を囲み諭吉の紙幣を一面に撒き散らす。  周囲のブースの客はマナーの悪さに嫌気がさしてか、席を立ち店を出てゆく。 「ママ、悪いけど今夜はもう帰るよ」  ゆっくりと大人のお酒を飲みに来た男達にとって、その光景は目をつぶり難い横暴な振舞だった。 「会長さん、ごめんなさいね。もう手が付けられなくて……」 「ママ、あの客噂だと薬物の横流ししてるとか、裏の世界でもヤバい組織がバックについている話も耳にしたから気を付けたほうがいいよ」  一部上場企業である大会社の会長も利用する高級クラブだったが、ここ数日毎日の様に訪れる矢島勇仁には手を焼いていた。 「会長さん。実はここだけの話なんだけど、 明日逮捕状が出る予定なのよ」  その事件とは、二週間前深夜の国道を走る一台の車が交通トラブルを起こし相手の運転手を撲殺した事件だった。 犯人は翌日の早朝自首し事件は解決に思えたが、自首した男は犯行当時、別の場所にいたことが判明し替え玉を使い罪を逃れようとした真の犯行を起こした矢島勇仁の証拠をようやく警察は掴んでいた。 「あぁ、あの事件か……酷すぎる」  撲殺されたのは若いサラリーマン、出産を控え地方の実家に帰省していた妻が産気づき、出産に立ち会いたいとの意向で深夜都内から車を走らせ病院へと向かう途中の男性だった。  この店の常連である警察上層部の者から、矢島が店を利用している状況を逐一報告する協力要請により事前に逮捕の情報を入手していたのだった。  
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