物語は終わりたい

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 店の中は他の古本屋とたいして変わらなかった。本だらけだ。  碧衣は店内を見上げた。真ん中は吹き抜けになっており、2階、3階と階段が続き、壁に本棚が並んでいた。 「いらっしゃい」  いきなり声が聞こえた。碧衣は前を向くと、メガネをかけた白髪のおじさんが立っていた。いつの間にそこにいたのだろう。 「どうも」  おそらくこの店の店主だろう。碧衣は小さく会釈をした。 「ゆっくりしていってね」  はい、と答えたが、碧衣は長居をするつもりはなかった。  とりあえず適当に、そばにある棚から見てみた。すると、碧衣は妙なことに気がついた。  本に題名が無い。置かれた本は、大きさや色、材質はこそ違うけれど、どれもこれも無地の表紙だった。 「あの、すいません。本の題名ってわからないんですか?」  碧衣は店主に聞いた。 「わからない、というよりも、つけられていないのです」  店主は穏やかな表情で答えた。 「つけられていないって……」  いったいどうしたら、そんな本が売られるのか。 「驚かれているようですね。確かに少し変わっていますが、ここにある本は、特別な本なんですよ」 「どう特別なんですか?」 「それは、読んでからのお楽しみです」     
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