物語は終わりたい

4/21
前へ
/21ページ
次へ
 店主はにっこりと笑った。  特別と言われると気になる。せっかくだから、どれか一冊買ってみよう。  でも、表紙もあらすじもなく、どうやって選べばいいのものか。  碧衣は腕を組んで考えあぐねた。 「お嬢さん、悩む必要はありません。ここは他の店と違って、人が本を選ぶのではなく、本が人を選ぶんです。中を歩き回るといい。そしたら、向こうから来てくれますよ」  向こうから来るだなんて、本がのこのこ歩いてくるわけでもあるまいし。  碧衣はとりあえず、言われた通り店の中を歩き回ってみた。  まずは1階をぐるっと一周した。しかし何も起こらない。次に2階に上がり、また一周した。だがやはり、何も起こらない。  3階に上がり半周進んだところで、もう諦めかけたその時だった。  目の前にいきなり一冊の本が落ちた。正確には、本棚から一冊の本が飛び出してきた。  碧衣は突然のことに驚いだが、そーっとその本に近づき、拾い上げた。  それもやはり表紙が無地で、黒い本だった。なんだか不気味な色だ。 「どうやら、見つかったようですね」  下から店主の声が聞こえた。柵から見下ろすと、店主がニコニコ顔でこちらを見上げていた。  きっと彼は手品が趣味なのだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加