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「ま、こっちの首にもそれなりに金は懸かってるしねえ。依頼先とは別のところに持ってけばいい話か」
こちらとしても蜻蛉に逃げられるのは好ましくない。すいっと軽やかに笑った後で、猫は携帯電話を取り出した。
「もしもーし」
『はいはい』
出たのは犬だ。
「お、ワンコールで出たね。犬だけに。なんつって」
『寒い』
ばっさりした評価に、一瞬、黙る猫。
「手っ厳しいなぁ。そんじゃ本題。蜻蛉を誘導したよー」
『ん、分かった。こっちも準備できてるよ。お互いに仕事開始といこうか』
「よろしくな。あ、犬には関係ないけど、蜻蛉、銃持ってたよ。少なくとも一丁、口径はそんなに大きくないやつ。それにはサイレンサーついてたみたい、音しなかった」
『撃たれたのかい?』
「撃たれたけど、威嚇みたいなもんで怪我はないよ。こっから本番」
鼻歌じみた調子で話しながら、猫の視線は立体駐車場から離れない。雨と闇に身を隠しつつ、滑るように滑らかに、蜻蛉の待つ場へ入っていく。
「じゃ、そっちは任した」
『ああ。それじゃ』
通話を終えようとボタンを押す寸前。相棒の声が、微笑を乗せて猫に届いた。
『帰ったら紅茶を淹れとくよ』
【5】了
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