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蜻蛉は一週間後に任務を遂行しようと決めた。
組織の調査員が犬と猫を観察し、行動パターンや戦力分析を行っている。その報告書に、猫は雨の日に出歩くと記してあった。一週間後は雨の予報が出ている。うまく猫が散歩に出れば、そこで先に猫を片づけるつもりだった。犬は銃、猫はナイフを主に使用するらしい。猫と渡り合うならば、飛び道具の方が便利だろうか。
報告書を読みながら、蜻蛉はそんな計画を立てていた。入ったときとほとんど何も変わっていないホテルの部屋で、テーブルに缶コーヒーを置いて椅子についている。やがて、隅々まで目を通した報告書を丁寧にまとめ、ダブルクリップで綴じた。置いていた眼鏡をとり、慣れた動作で定位置にかける。
計画通りにいけば、決行日は雨だ。
眼鏡が濡れるから、蜻蛉は雨が嫌いだった。
/
一週間後。
「雨、降りそうだねえ」
紅茶のカップを手に、猫が楽しそうに呟いた。すでに沈み始めている太陽に追い打ちをかけるように、黒い雲が空を隠していく。
「そうだね」
こちらはコーヒーのカップを傾けながら、犬が応答する。
「蜻蛉は私が散歩に出ると踏んでるかなあ」
「そうかもね」「期待には応えなきゃなあ」
「そうだね」
猫は名残惜しそうに、カップにちびちびと口をつけている。賞金首による襲撃は止まった。代わりに、襲って来ずにこちらを窺う不審者が増えた。調査員なのだろう、犬と猫はあえて放っておいた。あからさま過ぎる相手の態度に違和感はあったが、罠を張るなら飛び込むまでだと言ってのけた猫に犬も笑って賛同した結果、依頼人と連携して調査と打ち合わせを重ね、敵に叩き込むカウンターを用意して今日に至る。
夜と雲に侵食されて、いよいよ、空は暗くなる。
雨の匂いと気配を感じ、猫はゆっくりと立ち上がった。
「行くかい」
犬が問う。
「行ってくるよ」
にっこりと笑った猫に、犬も笑みを返す。
猫がひらりと手を振ったとき、ぽつりと空から雫が降った。
雨が降り始めた。
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