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出会いは二年前の春。
自宅の1階のリビングで、今日もいい風だなぁ……とふと窓の外を見ると、ヤツは網戸に爪を引っ掻けてよじ登って遊んでいた。
目があった瞬間、私は思わず叫んだ。「何してんの!?」
ヤツは「へへっ」みたいな顔でこっちを見ていた。
まだ小さい茶トラの男の子。薄汚れた毛並みにやんちゃな目付き。チャームポイントは鍵尻尾。典型的な野良猫だ。
少し頭の悪そうなところが可愛かったので、近所の猫に与えていたエサをお裾分け。育ち盛り、あぐあぐ食べる。近寄ると警戒。まだ触らせてはくれないのね。
それからヤツは頻繁に顔を見せるようになった。
「ちわーっす、やってるぅ?」
「らっしゃい! いいの入ってんよ!」
そんな挨拶をしそうな距離感。ヤツは我が家を無料の定食屋かなにかと勘違いしているのではないか。
3ヶ月もするとヤツの中でどうやら私は定食屋から同居人に昇格したらしい。
やんちゃな瞳はどこへやら、いつの間にか甘えん坊なお子ちゃまになっていた。
すっかりイエネコになったヤツは、毛並みも艶々。うちの近所にいる野良猫と比べると、同じ茶トラでもヤツはツヤツヤを通り越してキラキラしてる。茶トラというより黄金。
野良時代の写真と比べるとすっかり人が変わった……いや、ネコが変わった。
一人暮らしの私とヤツは、喧嘩もする。ネコVSヒト。なんと不毛な戦い。
本当に下らない喧嘩ばかりだが、ヤツが私の夕飯の生姜焼きを、おもむろにあのもふもふの小さな手でオラッと凪ぎ払ったことはまだしばらく根に持つつもりでいる。
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