元気が出る

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 それから暫くして、倉ちゃんから連絡があり、急遽飲むことになった。何やら落ち込んでいるようだ。  仕事が中々終わらず、待ち合わせの居酒屋に着いたのは、三十分遅れてのことだった。 「よしくん、遅いよ」  倉ちゃんの声に、僕は言い訳と謝罪をして向かいに座る。  もう飲み始めていた倉ちゃんは、すでに顔が赤い。ひょっとしたら、待ち合わせの時間より早く来て、飲んでいたのかもしれない。いつものような眩しさが微塵も感じられず、どんよりとした空気を纏っていた。  僕はとりあえず生ビールを頼み、倉ちゃんに何があったのかを尋ねる。  倉ちゃんはポツポツと話し始めた。 「咲と終わったんだよね。急に終わりにしたいって言われたよ。他に男が出来たんだとさ」  僕は何も返すことが出来ずに、倉ちゃんの顔を見た。  倉ちゃんと咲ママは不倫関係だった。既婚者の倉ちゃんは、単身赴任でこっちに来ていて、偶々入ったスナックのママに一目惚れをして、やっとのことで口説き落とした。不倫とはいえ、単なる夜の女を遊び半分に落としたわけではなく、倉ちゃんは本気で惚れてしまっていた。そんな経緯も僕は見てきていたので、余計にかける言葉がみつからない。  生ビールが運ばれてきて、倉ちゃんは「とりあえず、乾杯」と言って、ジョッキを掲げた。乾杯でもあるまいにと思ったが、僕もジョッキを合わせた。  僕が何を言っても慰めにはならないだろうと思いながらも、いずれは終わりがあることだったんだから、しょうがないと諦めるしかないよ。タイミングだったんだよ。ママも自分の幸せをみつけたんだから、応援してあげなよ。等、ありきたりの言葉を口にした。  倉ちゃんは、そうだなと頷きながら、僕の話を聞いている。  こんな時は、飲んで忘れるしかない。僕は倉ちゃんに付き合い、閉店まで一緒に飲んだくれた。  居酒屋を出ると、倉ちゃんが僕に言ってきた。 「よしくんの『難破船』聴かせてよ。こんな時こその曲だろ?」  そうだねと頷き、大の男が二人でとは思いながらも、僕らは近くのカラオケボックスに向かった。      
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