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怪物
「......うっ」
冷んやりとした地面に起こされて目を覚ますと、豆腐のような真っ白かつ四角い部屋にいた。周りの様子をもっと細かく知るために上半身を起こそうとすると、激しい頭痛に見舞われる。
それよりも、どうして僕はここにいるのか思い出せなかった。記憶を辿ろうとしても、モヤがかかって断片的にしか取り戻すことはできない。
部屋の天井には光源らしきものはないのに、部屋は明るい。そこに違和感を覚えるが、今はそれどころでなかった。
妻はどうなったのか。僕には妻がいて、彼女が自宅で待っているはずだ。何時間眠っていたかわからないが、あまり心配させると悪いので、一刻も早く帰りたかった。
もしかしたら、妻もここにいるかもしれない。ここへ来る前の記憶があまりないので、確信できないことがもどかしい。
とにかく、立ち上がって......。
立ち上がる前に、揺らぐ視界が純白の部屋に咲く血の薔薇を確認した。絢爛豪華に咲く薔薇の周囲には目も当てられないほど残酷な光景が広がっており、部屋にいた怪物が僕の目覚めに気づく。部屋の明るさに勝るほど輝く目が僕を捉える。
ゆっくりとこちらへと近づいてくる。2メートル以上あるその巨体が進むたびに部屋が揺れる。剥き出しの牙と鋭い爪を光らせ、恐怖を煽る。
目の前まで来て、動けない僕に手を差し出す。
「握手」
怪物がそう言った気がした。僕は何が何だかわからず、従わなければならないと思って手に触れた。
「ありがとう」
怪物は嬉しそうな表情を浮かべて両手を広げた。そして、その強靭な体で僕を抱きしめる。抱く力が強すぎて、僕は部屋に落ちている残骸のように体が真っ二つになった。
「はっ!」
そこで目が覚めた。夢......。まさか、妻に殺される夢を見るなんて。
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