第1話 転性への手引き

1/1
前へ
/50ページ
次へ

第1話 転性への手引き

ある日の事 王座の間にて神妙な雰囲気が流れていた。 「・・・申し訳ありません国王、おっしゃっている意味がよく理解できません。」 若干引き攣った表情で佇む少年。 紺青色の髪に紫の瞳、悪戯っぽさの残る少年顔で低身長。 どう見ても小学校高学年、お世辞でも中学生には見えない。 そんな彼を不思議そうに見つめ 「そうか、ならばもう一度説明しよう。」 王座へと座っている男性が口を開く。 ジール=アラクトス、この魔導国家における現国王である。 「知っての通り、この世界以外にも複数の次元が存在する。ここまではいいな?」 「はい、『並行世界』の概念ですね。」 「その通り。我々にはその別次元を閲覧、転移する術がある。だが―」 「―決して次元崩壊を招く行為はしてはならない。」 ジール国王の言葉で少年の目つきが鋭いものへと変わる。 彼の力の籠った声にジール国王も深刻な声色で話を続ける。 「しかしその別次元であるニホンという地において、膨大な魔力反応が検知された。記憶が正しければその地には魔導は存在しないはずだ。」 ありえない、と言いかけたところで少年はその言葉を飲み込み沈黙で返した。 普通なら起こり得ない事態だと承知で国王も話しているはずだ。 国王とは短い付き合いではあるが決して悪い冗談を言わない。 つまり 「『主天六導』第2位、ジンティス=エスタルカよ。」 国王の言葉に少年ジンティス=エスタルカは背筋を伸ばす。 「本日から3日後よりニホンへ赴き、事態解決へと尽力せよ。」 「はっ!」 そう、これこそが自分に与えられた使命。ここまでは理解できたのだ。 だが 「そこで女子校生として身分を隠すことを命じる。」 「そこです国王!」 間髪入れずにツッコミを入れる。 「潜入するのは分かります。ですが何故に性別を変える必要があるのでしょうか!?別に男性のままでも問題ないと思うのですが!?」 「よいではないか、お主だって以前「青春したい・・・」とぼやいていたではないか。」 「なっ!聞いていたんですか国王!?」 ジンティスの訴えを無視し、ドサッと大きめな箱を足元へ置く国王。 そこには黒ペンで「制服(女性用)」と殴り書きされた段ボールと案内パンフレットが。 「もう手遅れだった!!」 こうしてジンティスのニホン生活が始まるのであった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加