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1.幼女王
夢を見た、気がする。
誰かがひどく怒り、悲しみ、何かを決めた夢を。
あれは誰の夢なのかしら。
熱に浮かされた幼い子供が、何度もそう繰り返す。
側に控えた女性達は皆一様に痛ましげな表情だ。
「それはきっと、陛下ご自身の夢ですわ」
ベッドの傍らに座り込み、子供の汗を拭っていた女性が震える声で応えた。
その言葉が聞こえたのかどうか、力なくベッドに横たわる子供──イシュク王国第五十二代女王ハーリカは、僅かに目蓋を押し上げ、傍らに座る者へ視線を向けた。
女王として即位したといってもハーリカはまだ成人前の子供だ。
それでもその美しさは際立ったもので、母譲りの月光を紡いだような髪はキラキラと輝き、化粧を施さずとも肌は陶器のように滑らかで染み一つない。
とりわけ印象的なのは瞳だ。暗闇で爛々と光る猫のそれを彷彿とさせるトパーズの瞳。そこに宿る強い意思と知性が、彼女を何倍も力強く美しく見せていた。
しかし今の彼女からはそれが一切感じられない。
不健康に赤く染まった頬。普段は艶々とした薔薇色の唇は変色し、瞳は焦点が定まらぬようだった。
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