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この国では職業別に服装が細かく決められている。
男の着ている服は医官のものでないどころか、どの職業のものにも当てはまらない。
「私は行商です。主に薬草を取り扱っておりますし、医学も少しかじったことがあります。何かお役に立てないかと参りました」
旅をしながら商う者とわかり、シェナイは頷いた。
国に属さない彼らには服装の規定は適用されない。
素性の不確かさに不安はあったが、今は藁にでも縋りたかった。
「こちらに」
男を招き寄せ、ベッドの側を譲る。
女王の顔をまじまじと見つめ、首筋に指を当てたり目蓋を押し上げて目を確認したりする男の動きをつぶさに監視しながら、シェナイは内心首を傾げた。
怪しい動きは今のところない。
ただ何かが腑に落ちず、それが何なのか分からなかった。
「おそらくリクリマの毒かと思われます」
「リクリマですって!?」
死出の花の別名を持つ花の名に思わず声を上げたのは一人ではない。
美しい花だが花弁に毒があり、芳しい香りを一息吸っただけで死に至る猛毒植物だ。
ハーリカが毒を受けてから既に一時間、まだ生きていることが奇跡だった。
「矢を受けられたということでしたね。おそらく矢に塗るために花弁から毒となる成分を抽出したのだと思われます。その過程で毒が薄まったのでしょう」
これならば私の持っている薬草で解毒薬が作れるでしょうと続けられた言葉に、再度歓声が上がった。
後に盈月王と称されることになるハーリカはこの時まだ十一歳。
長い苦難の道は、まだ始まったばかり。
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