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スプレー缶で塗られた幼稚な言葉等の落書きを横目に見て歩く。新しい落書きが増えていると、僕がいない間にまたこの場所に新しい客人が訪れたのかと、この廃墟の主になった様な気持ちになる。僕はこの廃墟の全てを知っているし、何より雨の日でもほぼ毎日通っている。この廃墟に来ることで、屋上から街中の景色を見ることで、世界の全てを知ることが出来た様な、傍観者である神のようなそんな存在になれたような感覚になるのが好きだった。
落書きだらけのボロ臭い壁に手を添えて滑らせながら、音楽プレーヤーから流れるお気に入りの曲のリズムに合わせて屋上までの階段をテンポよく登る。
最上階の踊り場まで着き、屋上へ繋がるドアを開けた。
暗い階段を長く登ってきたせいでいつも晴れている日はドアを開けると目が眩む。
その感覚も含めて僕は好きだったけれど、目が慣れてきた頃、広い屋上の少し歩いたところにある低い塀の上、僕の特等席に既に客がいた。
見たことの無い、昭和の時代を連想させられるような形をした、黒いセーラー服、切りっぱなしの短い髪を風に靡かせている少女。後ろ姿で体型が華奢なのが伺えた。今にも飛び降りてしまいそうな、儚げな背中。
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