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音楽プレーヤーの電源ボタンを押して電源を落とし静寂。イヤホンを外し制服のポッケの中に入れながら、ゆっくりと彼女の元へ近寄り、人一人分、間をあけて隣に座る。
ちらりとこちらを見てから、彼女はまた正面に視線を戻した。白く透き通った肌と、程よい桃色の頬と唇。日本人らしい主張の強くない顔立ちだが、綺麗な横顔だと思った。まつ毛は、マッチ棒が乗るのではないかと思わせる程長い。
「夕焼け、綺麗だろ」
彼女が飛び降りる事を考えていようが、止める気は無かった。初対面の僕に、そんな資格はない。
ただ、得意げに僕は彼女へそう言った。
「…そうね」
顔を正面に向けたままこちらを見ずに彼女は小さく呟いた。儚げな横顔に似合う、小さな鈴の音のような、か細い可愛い声だと思った。
「名前はなんていうの?」
「…しいたけ」
「し、しいたけ?」
「そう、しいたけ」
「…それって、あだ名だろ」
髪もおかっぱだし。
「ふふ、よくわかったね。そう。本当の名前はね、しいな」
笑った顔も切なげで、まるで遠い昔の事を語っているようなそんな話し方だ。
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