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落ちるまでの短い間、彼女が耳元でまた囁いた。
「本当はね、私、貴方のことずっと前から、隣で見ていたのよ」
不敵な笑みを浮かべる彼女。すごく魅力的だけど、その笑みを見て全てを悟った。
成程、そういうことか、へえ、
「うそつき」
僕はそう一言だけ、最初に話した時彼女が僕へ放った言葉を真似して、呟いた。
初めて逆さまになって見る街の景色や夕焼けは、いつも見ている住宅街やビルが、天井から吊り下げられているようなさまが幻想的だった。黄昏時の夕陽は神々しく街中を照らし、朱色に染った雲や空に沈んだ、街の海に落っこちてしまうような、そんな不思議な感覚がした。
逆さまになって夕焼けに照らされた街の景色を見ると、いつも見る景色とはこんなにも違って、こんなにも、綺麗だったんだ。
僕は彼女と抱き合い街の海へと落下しながら、静かに目を閉じ、母親と、さっき会ったばかりの不思議な彼女のことを思った。
そうか、
僕のことをずっと見ていてくれた、今の僕の本当の理解者は、天国で僕のことをずっと見守ってくれていたであろうお母さんと、しいなだけだね。
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