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スマートフォンのナビで何度か確認して、目的地を指している駅から少し離れた高層マンションを見上げると、相生 美波は唖然とした。 エントランスではコンシェルジュらしき人がおり、丁寧な挨拶をされると、美波はさらに萎縮する。同じように軽く挨拶を返して、慣れない建物にどきどきしながらも目的の人物の名前を告げると、伺っております、とにこやかに対応して頂けた。 セキュリティがしっかり管理されているからか、住人から言付けがない限り、エントランスの奥の自動ドアを抜けることができないらしい。 ありがとうございます、と会釈をして自動ドアを抜けると、これまた豪華に装飾されたエレベーター前で、下ってくるエレベーターを待った。 ここに住んでいる住人全てが、自分の身の回りではありえないほどお金持ちなのだということがよくわかる。 1階で止まったエレベーターに乗り込み、18階のボタンを押すと静かに上っていく。3階、4階、5階と順番に表示される階数に18階に着く前に呼吸を整えようと、慌てて深呼吸をした。 18階で降りてすぐ、目の前には表札と扉は1つしかなく、否が応にでもそこが目的地だと告げていた。 扉周辺を注意深く確認したが、インターフォンらしきものが存在していなかったので、勝手に扉を開けることにした。鍵は開いている。部屋に侵入すると、玄関もこれまた広くていたたまれない気持ちになった。どうにも慣れない。 「...藤森先生ー? こんにちは...お邪魔しまーす」 玄関にはスリッパが置かれていて、それを履いて廊下を歩き、リビングらしき部屋で目的の人物を見つけた。 「あ、藤森先生!お邪魔致します。帝出版編集部の相生 美波です。本日は村山に代わり私が原稿を受け取りに参りました」 リビングのソファに藤森先生と呼ばれた男が美波の声に反応し、振り返る。 静かに近づいて菓子折りを差し出すと、少し目尻に小さな皺がある画面や紙面でしか見ることがなかった藤森 聡本人に美波の胸は踊った。先ほどまでの気持ちとは打って変わって、藤森の顔を見たら緊張が解けた。
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