【前編】

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「オレンジジュースでいいですか?ウーロン茶もあるけど」 「じゃあ……オレンジで」 「……すいません。そこにあるグラス、取ってもらっていいですか?」 彼は辺りを見回して、カゴの中に伏せてあった細長いグラスを取り出した。 そして拓海へと手渡す瞬間――するりと滑ったそれは、勢いよく床へとぶつかって砕けた。 「大丈夫!?」 「僕は平気……拓海くんこそ、大丈夫?」 何とか受け止めようと手を伸ばしていた拓海の小指に、血がじわりと滲んでいるのを見た悠は、その手を自分の口元へと運び、躊躇(ためら)うことなくその指を(くわ)えた。 「!」 心臓が大きく跳ねた。 彼の顔をじっと見つめる――このまま、時が止まってしまえばいいのに……。 はっと我に戻り、拓海は慌てて彼を離した。 「だ、大丈夫だから……そこの引き出しに救急箱あるんで、出してもらえますか?」 悠は指示された通りに引き出しを探し、取り出した絆創膏を丁寧に小指へと巻きつけた。 ドキドキと大きく響く鼓動が、指を通じて彼に聞こえてしまいそうだった。 「どうした?」 不意に拓也が現れてびくっとする。 「グラスを割っちゃって……」 悠が振り返りながらそう言うと、近寄ってきた拓也は彼の肩越しにこちらを覗き込んだ。
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