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【前編】
待ち合わせの5分前。
天気は良好。
デートの相手は……まだ来ていないようだ。
利根 拓海は青く晴れ渡った空を見上げて、大きくため息をついた。
「いい天気なのに……こんなのナシだろ」
少し落とした肩を軽く叩かれて振り返る。
「待った?」
見上げるのは良く知ってる……見なれた笑顔。
「全然。今日はどこに行きたい?」
拓海が精一杯の笑顔を返すと、古河 悠はにっこりと微笑んだ。
「どこでもいいよ。拓也の行きたいところでいい」
******
玄関のドアを静かに開けた。
とりあえず、ただいまと言ってみる。
気配はするが返事はない。
リビングをちらりと覗くと、ソファに座るのは、自分と瓜二つの顔。
隣には、ついさっきまで一緒にいた彼とよく似た感じの、違う少年。
拓海は小さくため息をついてから、わざと大きな声でただいまと繰り返した。
「よう、お帰り」
こちらに気付いた双子の兄・拓也は、隣に座る少年に何やら耳打ちをしてリビングから出てきた。
階段を上がっていく拓也の後ろをついて行く。
彼は迷うことなく拓海の部屋へと入ると、くるりと振り返った。
「どうだった?」
「どうって……別に。映画観てメシ食った」
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