【前編】

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「あちゃ……派手に落としたな」 「ごめんなさい……」 「俺が悪いんだよ!ちゃんと受け取らなかったから……」 「……悠。ここはこいつに任せて、俺らは部屋に戻ろう」 「でも――」 「構わないよ。後、やっとくから」 そう言って微笑むと、悠は申し訳なさそうに「ごめんね」と呟いた。 グラスを手にした拓也が悠を軽く肘で突く。 見上げた彼が、ちらりと動いた拓也の視線に気付いて、ジュースを手に取った。 そんな些細なやり取りにすら胸の奥がちくりとして、拓海はふいと視線を外した。 二人が出て行ったのを確認してからため息を一つ零し、(おもむろ)に座って破片を拾い集める。 ふと小指の絆創膏に気付くと、拓海はしばらくの間それをじっと見つめていた。 どれぐらい眠っていたのだろう……拓也の怒鳴り声で拓海は目を覚ました。 ソファから体を起こし、寝ぼけ(まなこ)のままリビングからそっと顔をのぞかせる。 その前を、階段を勢いよく駆け下りてきた悠が通り過ぎ、そのまま家を出て行った。 突然の出来事に呆然としていたが、やがてのっそりと動き出すと、階段を静かに上がった。 少しだけ開いているドアの隙間からちらりと覗きこむ。 そこには、ベッドに寄り掛かり、ぼんやりと天井を仰ぐ拓也がいた。 「……おい」     
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