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 ――キィーーキィーッ  甲高い山鳥の警告声が遠ざかる。ズキン、と鈍い痛みに薄く目を開けると、バラバラと人工的な騒音に包まれた。 「おぉーい! 大丈夫ですかぁー!」  聞き慣れない男性の声。状況が分からず、ぼんやり眺めていると、オレンジ色の作業着にヘルメットを被った人達が、何事か言いながら僕を囲み出した。 「聞こえますか?!」  頷こうとして、身体のどこかが痛み、顔をしかめる。 「意識があるみたいだ!」 「大丈夫、これから搬送します!」  ――搬送……?  ヘルメットの男性が消えると、視界一杯に澄んだ水色の空間が広がった。強風がザアッと吹き抜ける中、小さな黒い魚が1匹やって来た。  身をくねらせず、真っ直ぐに泳いで来た魚は、そこが定めであるかの如くピタリと一点に留まった。波紋を描くように、魚の周囲を何かがぐるぐると回っている。身動ぎしない不思議な魚を、やはり動けないまま、僕はぼんやりと眺め続けていた。  それが、捜索隊の救助ヘリコプターの機影だったと理解したのは――搬送先の病院の集中治療室を出た後になってからのことである。 ー*ー*ー*ー  急斜面を2度転げ落ちた割には、僕の怪我は軽かった。左腕と右足の骨折の他は、無数の擦り傷と切り傷はあったが、脳波や内臓に異常は見られなかった。  僕は、草丈の低い開けた河原に倒れていたそうだ。  「岩魚沢(いわなざわ)」、と地元で呼ばれるその場所は、狭く蛇行した渓流の中流にあって、唯一、崖下に河原が形成されている場所だった。お陰で捜索の早い段階で、上空から発見された。 「全く幸運としか言いようがありませんね」  低体温症になりかけていたものの、沢の水に浸かっていなかったことが生死を分けたと、ドクターに説明された。  しかし――それよりも、もっと九死に一生という状況があった。  僕が倒れていた河原、そこには直径10m超の岩石もゴロゴロ点在しており、少しでも落下地点がずれていれば――即死だったそうだ。 ー*ー*ー*ー  経理部の同僚、河野さんが果物籠を手に、3度目の見舞いに来てくれた。  6人部屋の窓側のベッドから見える景色は、既に雪景色。あれから1ヶ月が経とうとしている。 「……前島は?」  ずっと気になっていた疑問を口にした。 「まだ……見つからないらしいわ」  綺麗に切り揃えた前髪の下の眉が、困惑の形に歪む。
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