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新人が入力ミスしたとばかり思われていた、決算報告書。実は前島が、盗み見た新人のパスワードを使って、決算前にデータを改竄したというのだ。
決算前の9月、確かに前島は、僕を夕飯に誘う口実で、残業中の経理部によく顔を出していた。残業仲間には、件の新人もいた――けれど。そんな簡単にパスワードを盗むことなんか出来ない筈だ。
『今年中に営業部の金庫に300万、取引先の知人に500万、返済する必要に迫られていたらしいですなぁ』
釈然とせず、シーツのシワを見つめている僕に、年配の刑事がラッシュをかける。
『知人……田渕部長ですか?』
『ええ。何か、お聞きで?』
『田渕部長から聞いた穴場だって……あの山』
丸顔の若い刑事が頷いた。
『あなたが発見された"岩魚沢"、あそこは渓流釣りの穴場でして――田渕さんの話では、前島さんと一緒に釣りに行ったことがあるそうです』
遺体が見つからなければ、降りる筈の保険金が手に入らない。第三者に発見されやすい場所で、不慮の事故死を演出することが、前島には必要だった――?
『……お引き取り、いただけますか……すみません』
完全にKOだ。これ以上、口を開く気力が出ない。
僕の顔色を見て、刑事達は大人しく病室を出た。
彼らは、捜索隊が見つけたという僕のリュックとスマホを置いて帰った。
後から聞いた話では、前島のスマホも黄色いリュックも現場からは見つかっていないという。勿論、僕をあの山に連れて行った、彼の白いプリウスも――。
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